それは洋菓子というには大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。
世の中には信じられない出来事がたくさんある。これはいまだに信じられないがあまりに強烈すぎて今も鮮明に覚えている。
私は母子家庭な環境で育った。日中は母親がパートが終わるまで祖母の家でゲームに没頭する毎日だった。祖母はお菓子が好きで、何かあれば私に色々食べさせてくれた。そんな甘党の祖母の影響で、和菓子や洋菓子を年中食べていた。満足できなければ祖父の仏壇の薄皮饅頭を食べて空腹を満たしていた。
これは小学2年生の春、おそらく平成元年くらいだったと思う。いつものように祖母の家でゲームをやりながら、買い物に出ていた祖母の帰りを待っていた。程なくして帰ってきた祖母が珍しく洋菓子を買ってきた。
私は初めてみたそれを見て衝撃を受けた。それは洋菓子というにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。(ベルセルク風)
…その洋菓子とは、まるごとバナナ。
仏壇の茶菓子をくすねて食べていた私にとって、まるごとバナナはまさに黒船に乗ったペリー。文明開化だった。
その日以来私は祖母に駄々をこねるという恫喝行為を繰り返してはまるごとバナナを買ってきてもらい食べていた。
しかし神様はちゃんと見ている。優しい祖母のお金を食いつぶすクソ孫に鉄槌を下してくれたのだ。
それは、忘れもしない梅雨があけて蒸し暑くなってきた8月初旬。祖母に買ってきて貰ったまるごとバナナを食べようと冷蔵庫から取り出す。いつもなら一人で食べるのだがその時は何故か祖母と半分こしようと、まるごとバナナを顔の前にセットし、半分にした瞬間にパクつく予定だった。
半分にした瞬間、中から人差し指くらいのイモムシが出てきた。気づいたら私はまるごとバナナを壁に叩きつけていた。
あれから何年も経つし、未だにまるごとバナナや普通のバナナを食べてもイモムシなんて出てきたことはないから相当レアだったかもしれない。
もしあの時半分にしないでそのまま食べてたらと思うと怖い。それにしてもまるごとバナナは偉大な洋菓子である。
ああ、今夜もまるごとバナナ食べよ。